the american gallery of psychiatric artというサイトがある(あった。残念ながら今はもうない)。1960年代から現在に至るまでのアメリカの精神科薬の広告アート集である。どういうわけかアメリカの広告アーティストたちは、精神科の薬の広告では、患者の感じている恐怖感や抑うつ感といったものを表現せねばならぬ、と思いこんでいたらしく、ぎりぎりと歯を食いしばる男やら闇の中にうずくまる女やら、見ているだけで不安にかられてきそうなほどおどろおどろしい図案ばかり。なんと、笑顔の絵柄が登場するのはようやく90年代になってからである。どうやら、薬が効いて楽になった状態を描いてもいいのかも、とアメリカ人もやっと気づいたらしい。
さて、同じようなサイトの日本版ができないものかと思い、医学図書館にあった古い精神医学雑誌をぱらぱらとめくっては、薬の広告(薬ではないものもあるが)を集めてみたのがこのページである。
もともと日本人はあまり感情を表に出さないせいか、広告でもアメリカのように人の表情を使ったものは少なく、抽象的、イメージ的な図柄が多い。そのため、アメリカのように強烈なインパクトの広告は少ないのだけれど、かえってその分じわりと心に迫ってくるものがあるのではないだろうか。興味深いのは、鬱々として不安に満ちた60年代から、不自然なほどに明るい最近のものへと、時代によって広告図像が大きく変化しているところ。広告は、社会全体の精神病イメージの変化を敏感に写し取っているのである。
一般の目にはあまり触れることのない広告アートを堪能していただきたい(画像をクリックすると広告全体を見られます)。